メニュー

須高医師会 日医生涯教育講演より(医療者向け)

[2019.02.25]

【第1講演】

H30年5月31日(木)19:00~

「SGLT2阻害薬が教えてくれる事」

~2型糖尿病を糖代謝関連臓器間ネットワークの破綻として捉える~

川田クリニック 川田敏夫

 2型糖尿病の病態をあらためて問われた時、どんな概念が浮かぶでしょうか?

このテーマが、2014年4月17日のSGLT2阻害薬の発売以来ずっと私の頭の中を駆け巡っています。このたび、須高医師会で発表の機会をいただき、これまでの考えをまとめてみます。

 まず初めに、人体における腎臓の役割が最近注目されていることを強調したい。その理由として①腎臓に直接働く薬が新たに二つの臨床の現場に現れた事②臓器間ネットワークの仕組みが議論され、その中で腎臓が中心的な役割を演じている可能性が言われ始めている事などが挙げられる。①は選択的競合的バソプレシン受容体拮抗薬のトリバプタンであり、SGLT2阻害薬である。前者の登場により循環器疾患に対する臓器連関(心腎連関、CKDの概念)が再考されている。②に関しては、「人は腎臓と共に老いる」という名言が印象的である。医学教育の父オスラー博士のあの名言をもじって(?)、慶応大学腎臓内分泌内科の脇野修准教授が抗加齢医学会の学会誌の中で発表している。また5年後に一度改定放送されるNHKスペシャルシリーズ人体で昨年10月、神秘の巨大ネットワーク「第1週“腎臓”が寿命を決める」が特集された。腎臓のある遺伝子欠損で早老死マウスがおきる事、多臓器不全の臨床では腎不全がカギを握っていることなどが紹介された。

 さて、糖尿病の分野ではSGLT2阻害薬エンパグリフロジンのEMPA-REG OUTCOME試験とカナグリフロジンのCANVAS Program試験において心血管アウトカムの“Amazing Result"が報告されている。また副次評価項目であるにも関わらず両者共に示された腎保護効果の結果を受けて、今年アメリカ糖尿病学会のガイドラインで初めてSGLT2阻害薬の腎保護効果が認められた。この腎保護効果こそが心腎連関などを介してSGLT2阻害薬の心血管イベントの抑制、-すなわち心不全の2次予防や心血管死の低下-に繋がっていると私はみている。

 糖尿病の病態に関連した臓器としては、①インスリン分泌が低下している膵臓②糖新生の更新している肝臓③糖の取り込みが低下している骨格筋が従来指摘されていた。しかし2009年のバンチングセミナーを境として、④グルカゴン分泌が亢進している膵臓のα細胞⑤インクレチン効果に関する小腸⑥神経伝達物質機能障害としての脳⑦インスリン抵抗性を増す内臓脂肪⑧糖再吸収が増加している腎臓の新たに5つの臓器が加えられ、糖尿病標的臓器のパラダイムシフトと呼ばれた。腎臓はSGLT2阻害薬の登場を見越しての追加であったが、その後腎臓の糖新生亢進も高血糖の原因の一つである事が見直されてきている。SGLT2阻害薬による腎糖新生抑制の論文も報告され始めた。

 糖尿病と腎臓に関しては、晩期合併症としての糖尿病腎症が広く知られている。そのメカニズムとしては、糸球体機能異常が他の腎疾患と同様に注目されていた。しかし近位尿細管中心説も一部の学者の中では提唱されていた。数年前から賛同する学者が少しずつではあるが増えてきている。糖尿病における近位尿細管機能異常は、早期から起きていることが考えられている。アルブミン尿出現の前から糖尿病腎は肥大化している。糖尿病において腎臓は早期からオーバーワークを強いられていると私は理解している。すなわち、近位尿細管における、糖再吸収の増加、3倍の腎糖新生、その結果としての尿細管細胞の肥大、尿細管基底膜の肥厚、間質の膨化線維化である。また糸球体も過剰濾過を強いられている。

 以上論じてきた事から推論して、SGLT2阻害薬は腎臓のオーバーワークを休ませて、臓器間ネットワークの恒常性を是正してくれる薬であろうと考えている。今まで2型糖尿病においては、インスリン作用、その関連臓器が協調されすぎていたのかもしれない。糖尿病治療の標的があまりにも血糖値、HbA1cのみに(低血糖議論も含めて)焦点が偏っていたのではないか?SGLT2阻害薬が2型糖尿病病態改善薬として捉えられるならばこの薬は早期から使うべきである(1st Choice)。

 今回の発表の最後に、実臨床でのSGLT2阻害薬使用の工夫も述べさせていただきました。この度はこのような発表の機会を一開業医である私に与えて下さり、誠にありがとうございました。

 

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME